各分科会からの提言

A -2「企業内におけるデザイン:デザイン・イニシアチブの活動、社内デザイン教育について」

(C) The International Conference of Design for Sustainability

Chapter

はじめに
プレゼンテーション----富士通デザイン 加藤氏より
プレゼンテーション----INAX 平井氏より
ディスカッションで討議されたキーワード
結論
考察
今後の課題と方向性

プロフィール
コーディネーター:植松 豊行(東北芸術工科大学教授 デザイン哲学研究所 サスティナブルデザイン研究センター長)

プレゼンター:加藤公敬(富士通デザイン株式会社 代表取締役)、平井宏満(株式会社INAX 経営戦略本部 デザイン統括部 デザインセンター)

はじめに

コーディネーター/植松氏:サステナブルな社会においては、企業デザイナーにとってもサステナブルデザインの考え方が不可欠です。この分科会では、デザインがイニシアチブを取り、デザイナーが企業活動を支援していく可能性と、問題の在処が明確になっていない状況を共有しながら、今この時点から変わって行くための糸口を探っていきました。

まず始めに先進企業の取り組みとして富士通デザインとINAXの事例を紹介頂きました。分科会のプレゼンターは富士通デザイン株式会社代表取締役の加藤公敬さん、株式会社INAX経営戦略本部デザイン統括の平井宏満さんです。

プレゼンテーション----富士通デザイン 加藤氏より

まず始めに加藤さんより、富士通デザインの取り組みとして、インハウスデザイン部門の役割であるデザインプロセスを通じて、サステナビリティにつうじる施策づくりの活動、ものづくり(素材や製造法)、サービス提案、エコデザイン開発プロジェクトの事例、また、成果としてのエコデザイン実現のためのガイドブックの紹介をして頂きました。

具体的なご紹介しますと、富士通デザインはハードというよりはソリューションの提案をしているとのことでした。例えば、空間のサステナブル活動として、銀行店舗空間の提案を例としてご紹介いただいたのですが、お客様から見て全体がサステナブルになっており、その中に富士通製品も入っているというトータルでの取り組みということでした。また、富士通デザインはナレッジマネジメント(=知識経営:個人の持つ知識や情報を企業全体で共有し有効に活用する経営手法)として「サステナブルデザインガイドブック」を作成し、このガイドブックを基盤に内外に対し発信をしています。

プレゼンテーション----INAX 平井氏より

次に平井さんよりINAXのサステナブルデザインの取り組みをご紹介いただきました。INAXのサステナブルに対する取り組みの特徴は、ビジョンという形で2020年をターゲットにバックキャスティングをして、モノをデザインするのではなく、「行為」から新たなデザインを提示していることです。モノではなく行為から探って新たな価値を提案するためには、行為が変わるべきであり、そのためにはモノをデザインするのではなく、行為をデザインする。バックキャスティングの中で、企業のビジョンとコアコンピタンスを探り、新たな価値を提案しています。

また、学術機関とのコラボレーションや活動を社会に示すことでサステナブルデザインに貢献する取り組みを紹介して頂きました。この活動も社会に示し内外に発信されているのが大きなポイントです。対外への啓蒙活動は重要で、オフィシャルに出していくのもノウハウだと思われる。

これからは課題を解決するのではなく発見して解決することも重要です。どうマネジメントするのか、企業としてだけでなく、デザイン部門としてもイニシアチブをとって、JQA(=Japan Quality Assurance Organization 日本品質保証機構)やナレッジマネジメント(=知識経営:個人の持つ知識や情報を企業全体で共有し有効に活用する経営手法)、領域の拡大など、競争ではなく共に作っていく領域を見出すことが必要です。

(C) Rei Kubo
(C) Rei Kubo
(C) Rei Kubo

ディスカッション で討議されたキーワード

両社の先進的な事例を紹介していただき情報を共有した上で、20名ほどが3つのグループに分かれてディスカッションを行いました。歴史的な世界金融破綻、経済不況のみならず、環境を中心にした新たなモノやシステムつくりの社会構造や仕組みの変革が加速しています。トップランナーを目指す企業の中で、デザイン部門が新たな経営貢献へのプレゼンスを高める為に、如何なる機能、ミッションを持つべきか、活動、取組み、基盤になる人材教育の在り方を探り提起しました。

  • 生活に必要とするものをデザインする。(どうしても企業性を押し付けてしまいがちだが、生活からの発想で必要なものを見つける。)
  • 形から生活スタイルに発想を移す。
  • 問題解決マインドをもつ人を育成する。(これからの問題は課題の解決だけでなく、問題を発見しそれを解決していくことがサステナビリティな解決方法につながる。)
  • ソリューション力を持つ人を育成する・経営と技術(ユーザー)をつなぐのが、デザインの役割:もののデザインだけでなく、経営と技術(ユーザー)をつなぐことが必要。
  • 差別化ではなく価値化:差別化を図るのではなく、価値を作っていくことで存在価値を見つける。
  • 造形家とプロデューサーに機能を分化(アウトソーシング):説得力や影響力のあるデザイナー(もしくはデザイン部門)が企画から商品化までを担当するという、プロデュース機能を持つべき。
  • 資格としてのデザイン・大学は研究開発機関になるべし。
  • オープンリソース:オープンリソースによる分担開発において、デザイナーがプロデュース機能を担う。
  • ロングライフのロングって?:長く使うことを想定し、メンテナンスなどを考慮したデザインやサービス「ロングライフデザイン」によって企業価値を上げる。
  • 自社のデザインを理解する為に自社を一通り学ぶ。:OJT(=On the Job Training)
  • コンセプト立案→企画→商品化を一人で全てのプロセスを担当:(SDは当初理解されなかった)
  • 全否定から始めるべし:若い世代の教育やデザインは一方向を見すぎており、多様な広い視野を持つため、全否定から入ることも必要。
  • 東大総長退官講演 人間性教育の重要性の認識。

結論

以上のキーワードを踏まえた上で、全体的にまとめますと、このようなことが言えると思います。

1・ サステナブルデザイン活動を、企業活動の一環からデザイン部門がイニシアチブをとる姿へ

  • 新たなミッションとしてプロデュース機能の獲得(異能、他分野からのヘッドハンティングなども踏まえて)
  • ナレッジマネジメント機能専門領域の拡大、多様化と深厚への取り組み

2・ 学術機関や他社との連携(ex.人間や自然に関する部分を共創領域にする)

  • 専門領域のアウトソーシング化→専門化の分化が進み、特化し独立する。企業は機密でない業務をプロフェッショナルに依頼する。

3・ サステナブルデザイン理念の啓発、啓示

  • サステナブルデザイン開発理念、基準の制定及び推進
  • 人材育成、教育プログラムへのサステナブルデザイン織り込み、先行開発推進を通じたOJT
  • 人間教育、人間性の涵養へ

考察

【環境・人/サステナブルデザイン推進へのウェイトシフト視点からの考察】

1・ISO14001の取得、JQA経営品質活動等に示されるナレッジマネジメントの実践

  • 今回は論じる機会がなかったが極めて重要。新たなデザイン部門の運営政策と認識した取り組みが必要。

2・環境経営指標、環境開発基準、環境デザイン基準

  • ユニバーサルデザインの方針、ユニバーサルデザインの基準(マトリックス)
  • これらをデザイン開発にどう織り込むか

3・川上活動(研究、先行開発、開発ダム構築)からルーチンワークに至る、各主要段階での活用法、あるべき姿は?

4・デザイン部門のミッション

  • 持つべき機能の在り方→新たな位置づけ、プロデュース機能、開発企画、開発研究への参画
  • 経営貢献へミッションの拡大、フィールドの拡大、専門領域の面展開、多様化への対応→アウトソーシングやオープンリソース化へ

5・人材育成、教育プログラムへのサステナブルデザインの織り込み方

  • 実践能力向上→理念、知識、ノウハウ、開発検討の教育、OJT(全社教育+職能教育)&外部専門機関への委託、研究活動参画(国際ユニヴァーサルデザイン協議会/IAUD等)
  • 次の段階として専門研究開発機関や部署の設置→UD研、くらし研、サステナブルデザイン研究部門

【サステナブルデザイン推進に関して】

インハウス社内デザイン部門の機能と人材育成に関しての論点

1・機能、デザイン開発

  • モノのデザイン→+ことのデザイン価値の創出へ 
  • 他職能、社外とのコラボレーションによる推進

2・育成人材の方向

  • 基幹人材部門長、トップマネージメントの人材育成→職能資質に加えて全社幹部人材登用育成システムに則った育成
  • マネージャ育成
  • 専門職育成 

今後の課題と方向性

1.問題の特化、基本能力の練磨と専門領域、能力の多様化、細分化、プロデュース機能への注力

2.機能への絞り込みと多様化対応

3.教育のアウトソーシング化加速

  • 外部主要教育機関留学→グローバル教育、幹部教育、サステナブルデザインのグローバル視点の修得
  • 専門特化、ノウハウやスキルの把握、修得→特化デザイン研究機関、オフィスとの連携→実践+教育
  • 先行研究活動、発注→コラボ+委託+人材の育成OJT、専門オフィス&学術研究機関(大学院研究センターなど)

プロフィール

コーディネーター:植松 豊行(東北芸術工科大学教授デザイン哲学研究所サスティナブルデザイン研究センター長 )

プロフィール:1971年武蔵野美術大学造形学部産業デザイン科卒業。松下電器産業株式会社入社。2002年より同社パナソニックデザイン社社長を経て、2007年から松下電器産業株式会社上席審議役(デザイン担当)。武蔵野美術大学他にて、京都工芸繊維大学、多摩美術大学、名古屋工業大学にて客員教授、特任教授をつとめる。

プレゼンテーション 「富士通デザイナーによるサステナブルデザインへのチャレンジ」

プレゼンター:加藤公敬富士通デザイン株式会社 代表取締役)

企業経営における環境活動に対応したデザイン部門の活動(エコデザイン)をユニバーサルデザイン活動と合わせて紹介する。ものつくりやビジネス開発での役割はもちろん、企業の広報活動や施設運用におけるデザイン部門の活動も紹介する。

プロフィール:1977年 九州芸術工科大学(現九州大学)芸術工学部卒業、同年富士通株式会社入社。富士通株式会社総合デザインセンター長を経て、2007年10月より現職。国際ユニヴァーサルデザイン協議会理事、かながわデザイン機構副理事長、九州大学芸術工学部非常勤講師。

プレゼンテーション 「目標設定型デザインの取組み」

プレゼンター:平井宏満(株式会社INAX経営戦略本部 デザイン統括部 デザインセンター)

サステナブルな社会が実現している未来を2020年と設定し、その時、生活の基本行為である「入浴」「食」「排泄」の各領域での暮らし方と、必要とされる商品、サービスを仮説提示した取組を紹介。

プロフィール:1971年生まれ。愛知出身。1993年、株式会社INAX入社、2002年、INAXサステナブルスタイル・プロジェクトを立ち上げ、リーダー。2007年より現職。サステナブルデザインの事業導入とデザインナレッジ蓄積活用に着手。
http://www.inax.co.jp/

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