各分科会からの提言

B -2「消費とスピード:日本の消費文化を再考する

(C) Hiroshi Homma

Chapter

はじめに
プレゼンテーション内容
プレゼンテーションで討議されたキーワード
結論とキーワード

プロフィール
コーディネーター
中川 誼美(銀座吉水 女将)

プレゼンター
石田 秀輝(東北大学大学院環境科学研究科 教授)
白井 正三郎(江戸川区役所 生活振興部長)

はじめに

コーディネーター/中川氏:私の立場はデザイナーではございません。今回は宿屋を経営し、消費者とデザイナーの間に立っている者として参加させていただきました。

消費者はどうしても経済優先の中に引っ張っていかれますので、極端な言い方にはなりますが、否定することからはじめたいと思っております。否定することからということで極端な話になりますが、様々なデザインされたものの中には、デザイナーのエゴであって、カッコはいいけど役に立たないということが沢山あるように思います。私からしますとそれはあってはならないデザインのあり方ではないかと思います。

現在のような、経営と技術と消費者の間をつなぐのがデザイナーの役目になっている中で、結局は経営者側に収益が得られるか否かというところにデザイナーの立場があることから考えますと、私たち消費者としては、経済優先の本質の中に自分達の暮らしが引っ張っていかれてしまっているように思います。

プレゼンターのプレゼンテーションとプレゼンテーションからの考察

このような現状から、ちょっと前の日本の暮らしに視点を置いてみて、デザインすることを考えてみてはと提案しました。石田秀輝先生(東北大学大学院環境科学研究科 教授)と白石正三郎先生(江戸川区役所 生活振興部長)にご参加いただき、お話をして頂きました。

プレゼンテーション - - - 石田秀輝先生

石田先生のお話の中に、「文明は自然を淘汰して文化をおきざりにして進んできてしまった。元に戻ることはできないけれども、自然観が文明と文化の接着剤になるのではないか」というお話がありました。また、江戸時代の日本のテクノロジーは世界に先出たものがあり、このテクノロジーはいまでも通用するほどのハイテクノロジーだった時代もあって、大量生産ではなく通信販売や個人売りのような非常に自然と融合しながら、生活を楽しみながらテクノロジーを暮らしの中に取り入れていたのが江戸時代であるというご指摘もされました。例えば、茶室の中に宇宙観を見いだしたり、枯山水に海を創造したり、するこれは暮らしの中に想像力があり、自然観を取り入れているからこそ出来たことです。想像を膨らますこともデザイナーにとっては大切なのではないでしょうか。

江戸時代の「テクノロジーの素晴らしさ」「心と心を通わせあっていた自然観」「競争のない販売状況」それらが明治時代を向かえて、西洋型の競争社会が入ってきたことにより、職人が追いやられ現在に続いていると思います。

プレゼンテーション - - - 白井先生

白井先生は江戸川区の生活振興部長でいらっしゃいます。江戸川区と伝統工芸と学生がコラボレーションしている『えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト』では、伝統とデザインの新しい融合がなされて沢山の商品が生まれています。特に学生にとっては実際にものになるという実践で学べるということはよいことだと思います。また、このプロジェクトで伝統工芸の可能性を見出したことで、人手不足の伝統工芸の世界に2人の後継者が戻ってきたという実績もあります。

(C) Hiroshi Homma
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結論とキーワード

現在は携帯電話があることで待ち合わせが確実に出来るようになりましたが、恋人同士は携帯があることでドキドキがなくなりました。パソコンがあることで沢山の情報を得られるようになりましたが、旅行に行っても予め下調べをした場所を確認しに行くような旅になっています。これが心を失っていく原因です。私たちは自然観のない生活をしていることで、想像を膨らますことが出来なくなってしまっています。

西洋文化では自然を支配しますが、アジアの文化は日本文化を含め自然を取り入れています。石田先生は資源を地下と地上の二つに分けまして、今の文明は地下にあるものを使っているとおっしゃいました。地上のものは再生されるものですが、地上のものを使い結びつけることでデザインするということに今までは至っていませんでした。

デザインの中には第一次産業が入っていません。デザイン業界には、都会における生活を中心とした考え方しかなく、大企業やデザインに携わる人の一方的な集まりになっているのではないでしょうか。デザインも地方分権を考えて、一極集中(都会)ではなく地方にもっと動きがあってほしいと思います。

お金ではなく、多様な価値観の中から新しい価値観や暮らし方の価値観を見つけるべきです。

一つこの分科会のキーワードを上げるとすれば「時間がない」ということです。今日から変えていかないと間に合わない。そのためにはどうするべきなのか、そこで、【かっこよく】【ステキでいいなーと思うことを見つける】と言うキーワードを出しました。まさにこれを実現させるのがデザイナーの役目ではないでしょうか。

結論として、自然を大事にする価値観から一人一人が自覚をもって自分の暮らしの中に視点を持つこと。どこに視点を置くかが全ての始まりです。個人であることを自覚して視点を持ち【かっこよく】【粋に】【自然の価値観を見失わない粋な暮らしを】というのが今回の結論です。

(C) Rei Kubo
(C) Hiroshi Homma

プロフィール

コーディネーター:中川 誼美(京都吉水、銀座吉水 京都綾部吉水 代表取締役)

慶應義塾大学商学部卒。1970年より夫と共に自然主義運動まっただ中のアメリカのウッドストックに暮らした事をきっかけにナチュラルライフを始める。「自然を大切に」をテーマとした宿・食事処として、1998年に京都吉水、2003年に銀座吉水 2008年に京都綾部吉水を開業。衣食住文化すべて(ホールライフ)を「ちょっと前の日本の暮らし」をヒントにこれからの暮らしを考える文化活動を開始。海山農援隊会長&あたり前の家づくり会長。 http://www.yoshimizu.com/


プレゼンテーション 「粋(イキ)な暮らしとものつくり」

人の叡智は文化を創造し、テクノロジーの蓄積は文明となる。本来文化と文明は共存して初めて共栄できるものなのだが、文明は文化を置いてけぼりにして暴走し、そして文明崩壊にも繋がる環境劣化を招いた。この2つを繋ぐものは何か? それは自然であり、自然観だと思う。そして、その自然観は「粋」の中に今もしっかりと生きているのである。

プレゼンター:石田 秀輝(東北大学大学院環境科学研究科 教授)

プロフィール:1953年生まれ、企業での研究開発活動の後、2004年より現職。「自然のすごさを賢く活かす」を標榜し、人と自然の関わりを考えたものつくりと人材育成を行っている。環境リーダー人材育成を目的とした新しい大学院SEMSaT研究代表、最近では小学生たちの環境教育も積極的に行っている。また、自然のメカニズムを活かした多くの材料を開発し、環境技術倫理にも造詣が深い。ネイチャーテック研究会代表、アースウォッチジャパン理事など。


プレゼンテーション 「美術大学との協働による伝統工芸の振興」

「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」は、「工芸者と美大生が江戸川からこれからの伝統をデザインする」をコンセプトに、江戸川区の伝統工芸者と美術大学(多摩美術大学、女子美術大学、東京造形大学)とが連携し、新しい伝統工芸製品を創る事業です。伝統工芸を文化財保護的に捉えるだけでなく、一つの産業として捉え、市場ニーズに合った商品を開発するところに特徴があります。その背景
江戸川区の伝統工芸産業は、後継者の確保や販路の拡大等について困難な状況でした。
高度な技術と製品を次代に継承していくために、これまでの文化財保護的な支援に加え、新たな産業の育成に向けた取組としてスタートしました。

プレゼンター:白井 正三郎(江戸川区役所 生活振興部長 スーパー連携大学院設立支援室長)

プロフィール:1956年生まれ。慶応義塾大学卒業後、1981年江戸川区入区。2001年長期計画担当課長にて江戸川区長期計画(えどがわ新世紀デザイン)策定。2002年より産業振興課長にてえどがわ伝統工芸産学公プロジェクトをはじめ、各種産学公の取り組みを行う。その後2007年より現職。2008年よりスーパー連携大学院設立支援室長を兼務。

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