各分科会からの提言

B -2「地域と国際性:リージョナルルーツを受けて

(C) Hiroshi Homma

Chapter

はじめに
プレゼンターのプレゼンテーション内容
CSRの必要性と今後の課題
質疑応答

プロフィール
コーディネーター
川原啓嗣(名古屋学芸大学大学院メディア造形研究科教授)

プレゼンター
加藤 公敬(富士通デザイン株式会社 代表取締役)
木下 洋二郎(コクヨファニチャー株式会社 デザイン室)
高橋 陽子(社団法人日本フィランソロピー協会 理事長)

はじめに

コーディネーター/川原氏:3名のプレゼンターの方からお話をいただきました。始めのお二人が企業の方で、加藤公敬さん(富士通デザイン株式会社 代表取締役)、木下洋二郎さん(コクヨファニチャー株式会社 デザイン室)、3番目に企業ではない立場から高橋陽子さん(社団法人日本フィランソロピー協会 理事長)です。

ベースは高橋さんのシナリオで私なりに再構築してお話します。いきなり結論というわけでもないのですが、「フィランソロピー(philanthropy)」はギリシャ語に語源があり、「自愛、博愛、人間愛」という意味があるそうです。日本では企業で行う社会貢献という意味に捉えられていますが、高橋さんも説明しておられましたが、個人にも適用できる概念だと思います。

つまり行政にか変わって民間レベルで社会の課題を解決していく、あるいは民間が果たす公益の推進といった意図があるということです。

これは高橋さんが提唱している5つのポイントです。

  1. 自然環境の保護。地球環境保全、サステナブルと言い換えられます。
  2. 次世代育成も大変重要で、次に続く若者世代、また私達がまだ見ぬ命の世代に理念、運動をどう継承していくか、そういう意味では持続可能性、持続性という意味でサステナブルでもあります。
  3. ヒューマン・セキュリティ(人間の安全保障)。言い換えると人権、生命の尊厳ということです。
  4. ソーシャル・インクルージョン社会の実現。これは人が持っている様々な多様性を認め、生かしていく社会に方案していくと、質の高い社会が構築できるという概念で、これも精神そのものです。
  5. 市民セクターの基盤強化とありますが、第1が行政、第2が企業、第3セクターが市民です。市民がばらばらなので、役割としてNPO、NGOに期待されるところが大きいです。ただ、NPO、NGOの財政は脆弱ですからそれを強化、支援していく必要があります。これが企業、行政に求められていることではないでしょうか。

この5つのポイントを前提としてディスカッションをしました。

まず、企業が考える、企業が行うCSRの現状を加藤さん、木下さんの2社の方に伺いました。

(C) Rei Kubo
(C) Yoko takahashi

プレゼンテーション - - - 加藤氏

富士通の加藤さんですが、「グリーン・ポリシー・イノベーション」ということについて、お話いただきました。ユニバーサルデザインの観点から、ワークスタイルにどうITをいかしていくかという点で、結果的に顧客に快適なサービスを提供していくとのことでした。ここでキーワードとなるのが、連帯最適化、または最適化ということだと思います。ものだけでなく「こと」もデザインしていく、現場にある様々な課題を可視化し、関係者が問題を共有化し、それぞれ問題がないかを共有化しようということです。

具体的な商品として、らくらくフォンやATM、UD店舗、サステナブルとしては業界に先駆けたグリーンPCが挙げられます。  

  

(C) Rei Kubo

プレゼンテーション - - - 木下氏/コクヨ

コクヨさんは本業の社会的責任として「OPTIMUM DESIGN(最適化するデザイン)」というキーワードで無駄を消費させないという概念があります。そのキーワードとして、「Originality(創造性)」「Usability(機能性)」「Sociability(社会性)」「Aesthetics(審美生)」「Emotion(情緒性)」という5つを挙げています。

 

とても面白いのは、メディアでも取り上げられて話題になったのでご存知の方もおられるかもしれませんが、コクヨさんが発行している商品カタログの中に「エコバツマーク」を導入していることです。

つまり、コクヨのどの商品がどのくらいエコに貢献してないかということをレッテルとして貼っています。今年、全商品に対するエコバツマークが25%だそうです。3年間で0%にしたいという目標を掲げていて、とてもフェアなやり方だと思います。これをお客様に知らせるというのも重要ですが、同時に社内の関係者に喚起を促しています。社内ではこれを導入するにあたって議論があり、最終的には社長の意見もあって決定したそうです。

また、コクヨさんはオフィス家具も手がけていさっしゃいます。オフィスチェアの主流はアメリカのアーロンチェア(Herman Miller社)に代表されるようなメッシュタイプのものが主流です。確かに良いのですが、網なので寒い、体が冷えると苦情があるそうです。コクヨのデザイナーが提案したものは、山中俊治さんを起用してエアクッションを採用しています。各部材は傷んだら交換可能で、最終的には分別、リサイクルの対応を考えています。ロングライフ商品もかなりあります。

またサステナブルへの提案として、本社のリニューアルに伴い空き地、庭をオフィス空間として積極的に活用しようということで、エコクリエイティブオフィスと名付けて冬場でも作業できるように一通りIT環境を整え、回線を活用して会議を行い、出張を削減しています。この提案で41.5%CO2削減ということもあるそうです。

サステナブルデザイン提案としては、集成材の活用や、リサイクル対応の商品に順次力を注いでいるそうです。皆さんが使っているテーブルの天板もコクヨさんのものです。今後質も高めていきたいとのことでした。

(C) Rei Kubo

ステークホルダーズ(Stakeholders)とのコミュニケーションツール

企業は誰のためにあるか。最近はステークホルダーのものであると、関係性を考えた上で企業を見ていきます。CSRと考える場合、社会の企業と考えている会社はまだまだで、市場の中に含まれている、社会の中に含まれている、地球の中に含まれている、という発想で考えなければならない、と高橋さんは言っておられました。
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CSRの必要性

CSRのあるべき姿として、企業が社会に何ができるか、社会が地球に対してどうあるべきかを考えがちですが、そうではなくて地球において社会はどうあるべきか、社会において企業はどうあるべきかという風に考えなくてはなりません。

今、なぜCSRか、企業や業界の垣根を越えて社会の一部として考えることが重要です。デザインビジネスの世界では、企業にいるインハウスデザイナーは温室育ちで外を知らないと言われます。その場合押入れから出てきてみんなのわかる言葉で話しをしなさいと子供を諭すような感じで言われますが、その通りだと思います。一旦、外に出て厳しい風に吹かれないとわからないということがあるかもしれないからです。

CSRは「Corporate Social Responsibility」と訳され、認知されてきたと思います。

「Citizen Social Responsibility」は市民としての考え方ということが問われるということです。企業の中で創造に携わる人にも責任があり、それがCreator Social Responsibilityです。デザイナーはそのぐらい重要な働きをしていると受け取ったほうがいいでしょう。

CSRの今後の課題

  1. デザイナーが企業と市民の間に立ち、技術や知恵を活かすため、情報を共有する場や仕組みが必要です。手段をもう少し整備しましょうということを言っているのですが、群集が持っている英知をもっと活かす、あるいは情報を共有化することが必要です。
  2. ユーザーの社会的責任を果たすためには、商品の良し悪しを明確に意思表示することが重要です。すぐにでもできることは何か、広告を鵜呑みにするのではなくて、この商品は果たして自分の生活にあっているのか、買わないという選択をすることも必要です。
  3. CSRを推進している企業に投資をする(SRI)姿勢も大切です。

質疑応答

Q:企業の存在そのものが社会的責任を追及していないからなくなったほうがいいという考えはないですか?社会的責任を追及するなら企業はないほうがいいということをぜひお聞きしたい。

A:そういう意見もありますが、企業はやはり重要です。産業を興して、人を雇用して、生活レベルを確保しています。商品を購入することは消費者にとって大事な権利ですから良いサイクルになるように企業を使っていただきたいと思います。

(C) Rei Kubo

プロフィール

コーディネーター:川原啓嗣(名古屋学芸大学大学院 メディア造形研究科 教授)

1976年九州芸術工科大学卒業。77年同大学専攻科修了。80年英国王立芸術大学院(RCA)修了。株式会社キッド・ステューディオ代表取締役、及び国際ユニヴァーサルデザイン協議会専務理事。多岐に渡る工業製品、とりわけユニヴァーサルデザイン、サステナブルデザインなど社会的テーマに関わる商品開発を得意としている。

プレゼンテーション 「グリーン・ポリシー・イノベーション」

プレゼンター:加藤公敬(富士通デザイン株式会社 代表取締役)

1977年 九州芸術工科大学(現九州大学)芸術工学部卒業、同年富士通株式会社入社。富士通株式会社総合デザインセンター長を経て、2007年10月より現職。国際ユニヴァーサルデザイン協議会理事、かながわデザイン機構副理事長、九州大学芸術工学部非常勤講師。

プレゼンテーション 「オフィスファニチャーにおけるサステナビリティ」

コクヨグループは、「商品を通じて世の中の役に立つ」という企業理念のもと、ひらめき、はかどり、心地よさを提供しつつ、持続可能な社会の発展を目指します。オフィスファニチャーという商品を通してエコ&クリエイティブなワークを支援するデザインのあり方を考えたいと思います。

プレゼンター:木下洋二郎(コクヨファニチャー株式会社デザイン室室長、国際ユニヴァーサルデザイン協議会理事)

1990年京都市立芸術大学美術学部デザイン科プロダクトデザイン専攻卒業。コクヨ株式会社入社。以来、イスの商品開発を中心にオフィス家具全般のデザインに携わる。2008年より国際ユニヴァーサルデザイン協議会理事。

プレゼンテーション 「ステークホルダーはCSR推進のパートナー」

CSR元年といわれる2003年以来、企業の社会責任への関心が高くなってきた。しかし、これは、単に企業に要望するだけでは解決するものではない。企業を支えるステークホルダーとの協働が何より必要である。ステークホルダーは企業がCSRを遂行するためのよくパートナーであるべきである。

フィランソロピーとは?:ギリシャ語が語源であり、自愛、博愛、人間愛を表す。日本では「企業の取組む社会貢献」と訳されるが、個人・民間にも適用できる概念である。

プレゼンター:高橋陽子(社団法人日本フィランソロピー協会 理事長)

1973年津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業 上智大学カウンセリング研究所 専門カウンセラー課程修了 関東学院大学付属中学校・高校のスクールカウンセラー。企業社会の家庭・学校への影響力の大きさを痛感し、1991年より(社)日本フィランソロピー協会事務局長・常務理事を経て2001年より理事長。企業の社会責任(CSR) 社会貢献の推進に従事。明治大学 経営学部非常勤講師。

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