各分科会からの提言

C-2「社会起業:デザインにかかわる社会起業家と一次産業」

(C)The International Conference of Design for Sustainability

Chapter

はじめに
プレゼンテーションについて
プレゼンテーション・1:鈴木菜央さん
プレゼンテーション・2:兼松佳宏さん
プレゼンテーション・3:山根多恵さん、三原綾子さん
ディスカッションの討論内容
結論と考察

プロフィール
コーディネーター:鈴木 菜央・兼松 佳宏(greenz.jp)
プレゼンター:山根 多恵・三原 綾子(吉田屋 女将/若女将)鈴木 菜央・兼松 佳宏(greenz.jp)

はじめに

鈴木菜央氏:ゴールとしては自分が起業するにしてもしなくても、社会的な問題とデザインを結びつけた領域で仕事にしていきたいという方が集まってそれを達成するにはどうしたらいいかという点に主眼をおいてこの分科会が行われました。今回は3つ事例を発表し、まず私から全体的な議論のベースとなるような話をしました。事例発表2は兼松佳宏(greenz.jp)から新しい問題解決をしていく時のフレームワークについて発表しました。事例発表3は実際に地に足をつけた形で地域の問題を解決に結び付けていく例として島根県の旅館吉田屋の女将の山根多恵さん、若女将の三原綾子さんに発表していただきました。これらの事例を受けてディスカッションを行いました。

プレゼンテーションについて

プレゼンテーション・1:鈴木菜央さん

まず、現在の世界の認識を確認しようということで環境の中に社会があって社会の中に私たちがいるという認識を確認しました。議論の出発点としてサステナビリティの定義と現状の確認を行いました。

サステナビリティは国連のブルトラント委員会で定められたもので色々な解釈があるようですが、それは将来世代のニーズを損なうことなく、現代世代のニーズを満たす発展である、将来世代のニーズとはお金持ちになりたいとか、女の子とデートしたいとかそういった俗っぽいニーズも含めて発展をします。そういう俗っぽいニーズを満たす発展をすることで将来世代の普通の感覚のニーズが損なわれるということはサステナブルではないということを話しました。というのはサステナビリティと言うと結構狭い考え方というか、それぞれ異なった意識を持っていますし、ここでひとつ意識を広げるところでサステナビリティは様々な領域に跨っているということだと言いました。実際世界中であらゆる領域でサステナビリティの論文が発表されています。それをマッピングしますとこのようになります。

重なっている領域が沢山あり、都市計画から林業からエネルギーからあらゆる領域に跨っています。次に私たちがなぜこのような活動をしているかということについてお話をしました。問題がそこに山積みになっているのにメディアで伝わってくること、学校で学ぶことに非常にギャップがあると思っています。問題解決することが自分のビジネスに繋がことで、本当の意味で自分の幸せに繋がるのではないかというのがこの仕事を始めた理由です。非営利メディアgreenz.jpですが非営利型のオープンなメディアと株式会社ビオピオという営利なビジネスを通した社会変革を目指しているクリエイティブ集団です。最初から環境に関わることが出来たのではなく、最近になってほぼ100%なり、今、その質を上げて行くところに来たと思います。そしてどのようにしてグリーンな仕事を増やす努力をしたかという話をしました。最後に言っていることとやっていることが乖離しているのが一番良くないことだと思うので私たちがどのように暮らしているのかという話をしました。ここでは、水曜日はまったく新しいことをする日になっています。インターネットの技術を最大限に活用して例えばブラジルやヨーロッパに出張にいってもスカイプで会議をし、社会的な意味が大きいかということ、仕事が仕事を呼ぶ仕事であるかは重要であると思います。

プレゼンテーション・2:兼松佳宏さん

私たちのビジネスのベースになる考え方は「グリーンシンキング」というフレームワークで、一石を何鳥にもしていくというのが基本的な考え方です。これは今まで経済的に合理的であるかが全てでしたが、それによってこぼれ落ちて行く違うものさしが沢山あり、その違ったものさしもきちんと見ていこうということです。全てのものさしとは言いませんが、なるべく沢山のものさしで数値が最大化するような答えを見つけるべきではないかと思っています。

そのフレームワーク3つ主な項目がありますが、あるところのゴミはあるところの資源である。これはゼロエミッションの考え方ですが、ゼロエミッションというのはゴミがゼロになることではなく、あるところのゴミがあるところで資源だったりする循環の輪をつなげていこうということです。これはバックキャスティングの考え方でなくてはなりません。未来のあるべき姿からが逆算して今のやるべきことを考える、今のビジネスモデルを考えるということ、今の問題解決を考えることです。また、全員が勝つとはいいません、全員が泣かないビジネスモデルが必要です。

ひとつの例としてアフリカの子供が毎日何キロも歩いて水を運ばなくてはならない、それによって学校に行けないという問題があります。その問題解決はどうしたらいかというと、子供たちがメリーゴーランドみたいに押しながら手動で遊ぶと地下に蓄えられている水が地上15mのタンクに溜められる装置があります。子供たちは遊んでいるだけなのにいつのまにか水が溜まっています。あとは蛇口をひねると水が出るということです。そのタンクには広告が付いていてエイズなど様々な社会的コミュニケーションに使われます。これは設置も安く運営コストもあまりかからず、設置や運営に地元の雇用が作れます。そうすると雇用が生まれ子供は学校に通え、水汲みに行く大変さが軽減され、家庭の安全が守られ、エイズの啓発もできます。これで一石何鳥にもなる事例だということです。そういった新しい問題解決をするときに必要なフレームワークを発表しました。

プレゼンテーション・3:山根多恵さん、三原綾子さん

3つめが吉田屋さんの話で山根さんと三原さんにお話をしていただきました。とにかくパワフルで圧倒的に存在感があり、僕たちと年代が変わらないのにこんな人が日本にいるのだと、かなり勇気付けられる方々だなと思いました。彼女たちはただの旅館ではなくて、徹底的に地域の問題解決する場作りをしています。

旅館はメディアとして機能していて、吉田屋を中心として問題をつなげ、若者が入ってくる、若者とご老人が繋がっていく、それが小さいけれど根っ子となってつながっていきます。学生耕作隊というものがあり、おじいちゃん、おばあちゃんが果樹の山を持っていて、そこに若者を連れて行って収穫してもらいます。育てることは出来ても、(体力的な問題などで)収穫が出来ない、ならば若者とつなげることでおばあちゃんと会話ができ、果樹をもぐことで都会の中で生きている実感がない若者が生きている実感が持てるヒントになり解決になるというわけです。 

この例に見るように問題と問題をつなげていき解決するというクリエイティブなことをしています。多様な働き方があるため総勢70名のネットワークになっていますが、それぞれ違う仕事をしています。聞くところによりますと、東京で夢破れて帰ってきた人はお給料受け取りたくないそうです。受け取らずにリハビリインターンという形で働いている場合や、学生がインターンという働き方をしている人もいるそうです。もちろん正社員もいます。彼女は平日の営業をやめ、金、土、日だけにして残りの週4日は問題解決にあてています。ただその4日間は地域の人や都会の人を引きずりこんで、あらゆる環境活動やビジネスを展開することで、吉田屋のビジネスにもつながっています。はっきりと新しい形のビジネスとして成り立っているんです

 
(C)The International Conference of Design for Sustainability
(C)The International Conference of Design for Sustainability
(C) Rei Kubo

ディスカッションの討論内容

これら3つの事例を踏まえて、3グループに分かれてディスカッションを行い現状についてシェアをしました。参加者は様々ですが、皆さん課題はきちんと見えていました。問題と自分にはギャップがあります。それを埋めていくには何をどうしたらいいのかを考えました。何人か経験豊かな方もいらっしゃったので、自分の場合はこうだったと示していただきました。大事なものは持ち帰って、明日からと言わず今日から出来ることは何であるかを紙に書き、ひとりずつ発表していただきました。

皆さんに書いていただいたことですが、自分に正直になる、普通にやる、問題を掘り下げる、きちんと考える、目的を決めたら悩んでいることを捨てる、純粋に社会活動をする、あまり儲けようとしない、黙るな、怒れ、作れ、社会のスピードに負けず構想をもって続ける、耐えられないギャップを行動にかえてタスク化していく、それをさらに現実的なレベルのタスクをアクション化する、知恵のサイクルをつなげていく、知って伝える、仲間がいれば挑戦する、経験を積むことも大事、ご自愛ください、身近な着地点を探していく、怒っている若者がいたら一緒に行動する、若者に伝える、考えるように勇気づける、良いと思うことからやってみる、PDCA(Plan-Do-Check-Act cycle)サイクルからDCAP(Do-Check-Action-Plan cycle)サイクルへ、行動から学ぶ、とりあえず足を突っ込む、学びがちだ、又学ぶことで行動が妨げられていることがあったかもしれないので行動しながら学ぶ、この3日間のことを伝えたい、命あるすべての人に伝えたい、オンリーワンプロダクトをつくる、田舎に行って役に立って下さい、など沢山挙げてもらいました。

最後にお節介仕事ですが、良いことやっているのにあまりにもいけてないNPOがありました。そこに電話をして僕はデザインやっているのですが、御社のウェブサイトやニュースレターをデザインしたいのですが、と言ったらすぐ来て下さいということになりました。その仕事がその後のネットワークになって自分の仕事に繋がっているということもあるので、まずお節介仕事を押しかけでするのも良いのではないかと思っています。

(C) Nao Suzuki /The International Conference of Design for Sustainability

結論と考察

最後に、まとめますと2つになります。ひとつ目が【意識】、ふたつ目が【行動】です。

非常に印象的な質問ですが、自分は50歳で、どうしてそんなにわくわくしていられるのか、若者もそうじゃない人もどうも世の中わくわくしていない、どうして皆さんはそんなにわくわくしていられるのですかという質問がありました。その質問を受けてひとつは仕事の意識が変わってきているのではないかと思います。そこに社会問題があると、どんどん大きくなって自分の将来が脅かされていきます。ですが、親も学校も大きな会社に行ってお金は沢山稼ぎなさい、良い大学にいきなさいと言います。その間にものすごくギャップがあります。親が言うこと、メディアが言うとおりにしていったら自分たちの将来はどうなるのか非常に大きな不安があります。そのギャップが仕事の意識の変化といえます。今大学を出て企業に勤める気が起きないとかいう若者に山ほど会います。やっぱり社会的なニーズを解決することに企業が真剣に向き合ってこなかったからではないかと思います。真剣に向き合う企業があったら学生は喜んで入るでしょう。仕事が自分の将来に繋がる、子供たちに繋がる、という本質的なところに今の若者たちは気づいてしまっているのではないかという議論になりました。そして自分に正直になり、自分が問題解決するための努力をしていこうという結論になりました。

【意識】をふまえて【行動】につなげていくという点は、今までつなげていなかったことをつなげてみようということです。例えば社会問題とデザインは最近やっとつながってきましたが、もっと言うと問題と問題を繋げていこうという話です。こちらには若者が沢山いる、耕作地があるのでつなげてみようとか、都会と田舎をつなげてみるとどうなるか、それから探してみるとあらゆる所に可能性があるかもしれません。自分の足元、出身地の問題は大変に見えてしまいますが、それに真剣に取り組んでみるという意見もあり本当にそうだなと思いました。そして今やれることはあるとさっそく動こう、【行動】しようということで締めくくりました。

(C) Nao Suzuki /The International Conference of Design for Sustainability

プロフィール

イントロダクション 「この分科会、greenz、社会起業について」

プレゼンター:鈴木 菜央(greenz.jp)

鈴木菜央 greenz.jp編集長。株式会社ビオピオ取締役。「月刊ソトコト」にて編集・営業として勤務後独立。各媒体へのエンタメ系環境ニュースの提供、企業の環境マニフェストや環境・サステナビリティをテーマにした紙媒体の編集・ディレクション、社会的キャンペーンのディレクションなどを手がける。


プレゼンテーション 「一石をn鳥にするグリーンなデザインシンキング」

プレゼンター:兼松 佳宏(greenz.jp)

greenz.jpでは、社会を変革するためにデザインを活用した事例を多く紹介しています。そこで共通するのは、1石をn鳥にもするレバレッジの効いた考え方。今回は具体的な事例を紹介しながら、社会問題を効率的に解決し、みんながハッピーになるようなデザインのあり方を考えたいと思います

兼松佳宏 greenz.jpクリエイティブディレクター。株式会社ビオピオ取締役。"ソーシャルクリエイティブ"をテーマに、NPOのウェブ制作に関わる。2006年に独立し、greenzの立ち上げにデザイナーとして参画。「デザインとビジネスとサステナビリティをつなぐ」をテーマに、デザインや執筆、イベントプロデュースなどを行っている。


プレゼンテーション 「吉田屋のこと、地域貢献、インターンシップ、新しいライフスタイル」

プレゼンター:山根 多恵、三原 綾子

山根 多恵 山口県生まれ。大学在学中のカナダ留学から帰国後、地域に眠る財を活用して社会問題を解決するコミュニティビジネスに大阪・山口・島根など全国で携わる。2005年、社会起業家の世界組織:SVN(Social Venture Network)アジア国 際会議を議長として日本で開催。その後島根県へ移住、後継者不在で廃業の危機にあった老舗旅館「吉田屋」を知り、24歳で後継者・女将となる。現在、全国後継創業塾塾長、yab(山口朝日放送)ニュースコメンテータ、内閣府構造改革特区評価・調査委員として政策作りに参加するなど多忙な日々を送る。著書に「週末は若女将(メディアパル)」。

三原 綾子 島根県生まれ。実家は酪農家。大学在学中、NPO法人「行って楽しい・迎えてうれしい石見銀山NPO」を設立し、地域の魅力おこしや新たな観光地づくり、石見銀山に繁茂する竹の活用など地域活動を続ける。大学卒業後の進路選択で、都会より田舎を選択。温泉津温泉・老舗旅館「吉田屋」の若女将に抜擢され、22歳の若さで現・女将の山根多恵氏から旅館の経営を全面的に任される。週末3日の旅館営業・平日4日は地域貢献と、新しいライフスタイルを実行中。「若女将塾」と称した全国からの若者インターン受入れ、農の規格外野菜の流通の仕組みづくり、若者による政策提言も、積極的に行っている。


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