対 論

「星川 淳 + 山本 良一」

 パネリスト:星川 淳/作家、翻訳家、グリーンピース・ジャパン事務局長
       山本良一/東京大学生産技術研究所教授

 司会進行:益田文和(サステナブルデザイン国際会議実行委員長)

Capter

1 一度目のグローバリゼーション
2 二度目のグローバリゼーション
3 グローバリゼーションのフィードバック
4 東洋と西

益田:星川さん、ありがとうございました。山本先生、お忙しいところありがとうございます。大変ユニークなお顔合わせで対談をいただきます。なるべく核心に迫るお話を伺いたいたいと思いますが、私のほうで話題を選んで、お話を進めさせていただければと思います。

今回、星川さんのお話にもありましたグローバリズムということについて、今回のテーマの対話のひとつにしたいと考えております。もちろん環境問題というのは、グローバルな問題であると思いますが、それと同時に各地域にとっては、ひとつひとつ切実な課題を含んでおりますし、多くの問題が次から次へと起きてくることをすでに我々は体験をしています。世界中からそういう報告が寄せられております。

また、科学的な知見にもとづいての将来の予測という事を考えると、これまた実に多くの危惧がありますが、そうした問題に我々直面していて、先程の星川さんのお話にもああったわけですけれども、我々としても非常にじれったい思いをしているわけです。

星川さんの先ほどの図を引用させていただきますと、いわゆるバイオスフィアというのは厳然としてそこにそのままあり、その姿というのは、手探りながら把握している、あるいは自分自身もそこに含まれているという実感はあると。

科学技術圏、テクノスフィア、そこに関しては、山本先生の努力も合って、下の会場でただいま開催されているエコプロダクツ展のような膨大な成果があり、そこでの実験が間断なく行われているわけですけれども、あきらかにテクニカルなイノベーションというのが起きていることはわかるわけです。

しかし、人間の社会の方に目を向けますとまさに足踏み状態で非常に基本な行動原理に関する意思決定もままならないと。いわゆる集団的意思決定のしにくさ、合意形成が非常にできない状況があるわけですけど、このあたりについて山本先生、今の状況とこれからのことについてお話を伺いたいのですが。

山本:山本です。もう行動の時が来たと私は考えていまして、一番大事なのは、ひとつになった世界で我々がどうすべきか、という事を考えなければいけません。いま一日に20万人の人口が増えている一方で、他の種は100種類くらい絶滅しているのではと言われている。そして私たちはCO2だけでも1日に7200万トン放出しているわけです。化石燃料起源のこうした、放出したCO2の中の20%は1000年先まで残る。こういうただならぬ状況下で我々は生きております。死ぬ人の数を引いて一日に20万人、正味の人口が増えるわけですから、産まれる赤ん坊は20万人よりも多い訳です。この子供たちを我々がどうやって養うのか、ということです。

まさに我々は世界全体が、一つになって行動をお越し、今つきつけられている問題を解決せねばならないと。一言でいうと、今我々がやっていることは何かというと、クライメット・ジェノサイド=気候虐殺であると言えます。これは最近ウイニー・ダイアー(Gwynne Dyer)等、色々な人が使っている言葉です。

例えばバングラデシュは海面水位が上がっていく時にどこへ逃げればいいか。バングラデシュとインドの間には長大な万里の長城が築かれていて難民が入り込めないようにされているのです。

それから、メキシコのアメリカ国境もまさにそうです。2.5kmの国境にフェンスがはり巡らされ、上に自動小銃が設備されていて自動的に発射される仕組みになりつつある。

また、非常に心配しているのは、軍事専門家が10〜20年で、まさに気候戦争、クライメットウォーズが起こりかねないと言っている事です。イギリス、アメリカ、ドイツ、それぞれ公の報告書がでているわけです。気候安全保障、環境安全保障の時代に入りつつある。

そこでいま、われわれがどう行動するべきかというのがつきつけられているわけです。

まさにグリーンピースというのはアクティビズムであって、日本の歴史でいうと幕末でいう大塩平八郎の乱くらいのところに日本の社会はあるのではという気がしています。

こういったエコプロダクツ展(リンク)というのも、ひとつの手段であると思います。我々がいかに早急にサステナブルな社会に移っていくか、その実現のための手段であって、サステナブルデザインもまさにその実現のための手段です。

時間が重要なのです。もう10年、20年ということですから、その中で我々が行動を起こして、サステナブルな社会を作らねばならないところにきている。まさに世界全体の連帯です。それで、どういうふうに短い時間で社会的な変革を成し遂げられるかというところが一番大きなテーマではないかと。

昨日、前内閣特別顧問の黒川先生が、”日本は、エネルギー、食糧の輸出国になるということを政治が目標を設定してそれを官僚や学者、あるいは市民団体が具体的なロードマップを作り上げることができていない。そこの決断ができていないからこの状況である”、ということをおっしゃっておられました。まさに我が意を得たり、と思った訳ですが、日本はそういったロードマップが無い。食糧、エネルギーのインディペンデンスを10年、20年で作り上げることが日本のまず第一番にするべき課題ではないか。国際的に見てもそういうテーマが非常に重要になると私は思っています。

今回、益田先生が、星川先生と私をこの場に並べたというのはその辺のところを意図されたのではないかと思ったのですが?

益田:ありがとうございます。星川さん、こういった山本先生のお話なのですけれども、グリーンピースでは環境問題に関して基本的にどんなスタンスをとっておられますか。

星川:そうですね、いくつかあるのですが、ひとつは「現場主義」。多くの場合、環境問題の特に被害の現場というのを誰も見ていないところが多いということでまず現場にいく。それから「完全非暴力主義」、絶対に自他の心身を傷つけないという方法をとる。しかし、「非暴力直接行動」といって、例えば破壊の行動が起こっている時に、非暴力な、なるべく直接的な方法で介入したり、ある場合はとめたり、あるいは現場から映像なり実態を発信し、世界の注目を集めることで、間接的に破壊を止める。ソリューション、解決に向かうきっかけを作るということです。

(C) The International Conference of Design for Sustainability

山本:パワーポイントがあるので、ご紹介いたします。これは今日発売の本で『温暖化地獄2』です。「チッピングポイントを超えつつある世界」というのがテーマにあります。

技術も政治もチッピングポイントを超えなければいけない。というのは自然がチッピングポイントを超え、温暖化の地獄の一丁目から二丁目に行きつつあるという状況で、我々の国際社会、社会の側、技術の側、政治の側、市民の側もチッピングポイントを超えて社会自らを変革していかないと自然のチッピングポイントを食い止められないと。

キーワードは温暖化の暴走、コントロール不能に陥るのではというところです。グリーンランドの氷上アマゾンの熱帯雨林とか北極海氷の劇的な減少ですとか。これが科学者の予想よりも早いと。

これは9月の北極海氷堆積の図ですが、2013年には0になると。あと5年で消滅するという可能性もあるという恐るべきデータです。30年前に750万?あったものが全然もとに戻る気配もないと。もうこれはチッピングポイントを超えたのではないかと。2008年はほとんど1年氷になっています。

体積でいうと昨年よりも減っているわけです。もう10年経ったら北極海氷床は夏は消え、温暖化は加速して、シベリア、アラスカのツンドラは溶け、メタンガスが地表にでてきてしまう。ツンドラがとけているという証拠に昨年のメタンガス濃度が増加に転じているわけです。そこで世界は非常に心配しているわけです。

北極海氷が夏の間だけでも消滅すると大きな影響があります。特にヨーロッパ、地中海、アメリカの南西部、アフリカ南部、オーストラリアの西部が大干ばつになります。アジアのモンスーンも大きな影響を受けると科学者は心配しています。

今、夏の北極海氷が消滅のチッピンングポイントを超えたのではないかと疑われている訳ですが、あと15年くらいでグリーンランド氷床の全面融解が始まると言われています。このまま放置すると2050年までにはアマゾン熱帯雨林の崩壊、温暖化地獄の五丁目までゆくのではないかというのが世界の科学者の見方です。

どうやって問題を解決するかですが3℃に抑えるのか2℃以下にするのかそれとも現在より温度を下げて0.5℃以下に抑えるのか今3つの選択肢が議論されている訳でして、まぁまず2℃でいこうという声が挙がっています。

しかし、2050年までに50%削減したとして、これはITCCのマーチン・タリーが見せた図ですがここまで温度は上がってしまうと。ということは、2050年までに半分にしたとしても相当な犠牲がでることを覚悟せざる負えないと。したがって予防策のみならず、適応策もとっていかねばならない、ということであります。

このシナリオをどう実現するかと言うとIAEA(国際原子力機関)は昨年、炭酸ガスの貯留装置をあと20年間で460基建設すると言いました。原子力発電所は全世界で235基建設すると。それか省エネは今、平均年0.9%ずつエネルギー効率の改善をしていますが、それを2倍以上高めて毎年2パーセントの省エネをやると。トータルで、40%の省エネをやるということです。

今、危惧しているのは先月、クライメット・ウォーズ(気候戦争)という本をカナダのウイニー・ダイアー(Gwynne Dyer)が出版し、私もやっと手に入れて読んだのですが、彼は軍事の専門家で、ロンドン大学の軍事学でドクターを持ち、アメリカ、カナダ、イギリスの海軍に勤め、現在軍の大学で教鞭をとっています。また、ジャーナリストでもあり、大変著名な外交専門家でもあると。

それで、彼は、2050年までに世界でゼロエミッションにすると。2030年までに80%削減するまでにいかねばならないと。

このようなことを言っているのはアメリカのレスター・ブラウン、多分ジェームス・ハンセンもそうだと思いますが、とにかくものすごく削減をしない限り大変な状況になるといっています。

この気候戦争で取り上げられている事例が色々あるのですが、私が驚いたのはインド、パキスタンの水戦争による核戦争の勃発が非常に憂慮されると。原子力というのが、大変信頼できる技術ではあるが、世界に拡散するのは真剣に考えなければならないとしています。

イギリスの情報部の非常に有名な20世紀の前半を生きた方が回顧録を残したのですが毎年世界中から戦争が起こるという情報がはいってくると。その度にその可能性は低いと彼は言い続けたが二回間違えたことがあると。それが第一次世界大戦と第二次世界大戦だったと。これはジョークなのかもしれませんがね。

必ず干ばつ、水不足、食料危機、難民の発生、越境移動に関わる国際紛争が必ず起こるとウイニー・ダイアーは考えています。彼が言うには、飢餓が発生し、食料危機になった時、子供が飢え死にするのを最後まで見守っている親はいない、必ず豊かな社会へと求めて移動したり、襲撃したりしてきたのが人類の歴史であると。私もまさにそうだと思います。

プリンストン大学のある教授が「コンスタントバトル」という本を書いているのですが、その中でも人類の歴史は常に戦いの歴史でもあったと言っています。

そのことを考え合わせますと、人口の爆発的な増大と温暖化よるかんばつ、食糧危機という時代を向かえているわけです。いかに国際的に協力して、この問題を解決していくかということを考えなければいけません。

安倍元総理は全世界で半減ということを提唱され、今年福田ビジョンが発表されて日本は6〜8割削減とここまできた訳です。11月にニューズウィーク誌は「グリーン・レスキュー」ということをいい出しています。金融崩壊後の世界経済の後退を環境エネルギーで克服しようということです。

このこと自体は、私は正しい方向だと思っており、いかに我々がエコイノベーションで、地球温暖化に立ち向かうかということです。これは安全保障の問題であり、生存戦略であると思います。これをどうやってやるかです。

しかし『温暖化地獄』と、昨年に引き続き本を出しますと、私を終末論者のように言う人がいて非常に困るのですが、そうではなく、いかに我々は現実を見据えて行動していかなければならないか、ということであります。以上です。

益田:ありがとうございます。

(C) The International Conference of Design for Sustainability

我々は社会の実験をしなければならない

星川:まったくその危機感は山本先生がおっしゃった事に共感をいたします。非常に厳しいところにいると。急いでなんとかしたいという思いと同時に、世界を見渡して見ますと環境の面で政策やイノベーション、社会デザインが進む国というのはデモクラシーが進んでいる国ですね。

そこを考えると、危機は差し迫ってはいるけれども、誰かが独裁政治のようにやったらいいかというと、そうではないと思います。

日本では、何が足りないかというと本当の意味での民主化、といいますか、皆が問題を共有、納得、協力して合意形成の下にこれだ、という方向に行ければ日本人はすごい才能を持っていると思うのです。合意形成を行うべきですね。

山本:まことにおっしゃるとおりです。昨日、吉川弘之先生の基調講演をしていただきました。その中で二つの技術があるということをおっしゃられたのですが、一つは科学技術、そしてもう一つは、我々が開発していくべき技術として、ソーシャルテクノロジー、社会技術とおっしゃられました。

社会技術とは、非常に広い範囲をカバーするわけです。法律や条約を作ったり、NGOを展開するのも一つの社会技術だということです。

しかし、吉川先生がそこで紹介されたのが、ある原理原則で社会全体を変えてしまうのは非常に危険であるということで、「ピースミール・ソーシャルテクノロジー」ということをおっしゃいました。我々は社会的実験をしなければならないということです。ピースミールというのはつぎはぎですね。小規模な社会的実験をし、良ければ色々な地域に当てはめ、悪ければやめて別のモデルを探すということです。今日本では政府が6つの環境モデル都市を選び、サステナブル社会の実験をしようとしています。これがいいのではないかと。

星川:おっしゃるとおりですね。日本で一番欠けているのは実証例ですね。場所とか都市とか、モデルを作っていくことが大切だと思います。NGOやNPOが小さな政府のような代表を作りだして、報道や政府と渡り合ったりするとか、色々な実験が必要なのではないかと。

山本:今のデザインの実験というのが一つのキーワードなのではないかと思うのですね。サステナブルデザイン、オープンハウス、益田先生を中心に絵巻物を作られて、これは将来のサステナブルな社会がどういうものになっていくかということの絵巻物なのですけれども。それをどこかで実践してみると。そういう町長や市長が出てきてもいいのではないかと。

益田:昨日黒崎輝男さんとお話していて、それを団塊の世代がやるべきなのではないか?という話をしておりました。沢山おりますし、団塊の世代が色々やってみると何かわかるのではないかと。

星川:閉鎖的社会みたいなものを作るよりは、お金を投票的なものでもいいから集めて、新しい開発としてある地域を本当に2030年までに温室効果ガスゼロの地域を作ってみてしまうとか。そういうことがこれからの実験として必要なのではないかと思います。

益田:それにしても合意形成は難しいとつくづく思うのですが、エコプロダクツ展に行きますと、初日からものすごい人出で大変結構なのですけれども、相変わらず大手の自動車メーカーなんかがガソリン自動車の新車の発表会みたいなことをやっており、それに対してグッドデザインの賞のグランプリが出るという、なんという時代に逆行したことが起こるのかと思うのです。もう少し統制は利かないものかと。

山本:それはですね、私、実行委員長を10年ほど努めてきたのですが、私は規模が大きくなってくれば自動的に解消に向かうという楽観論者なんです。こういう展示会に100万人が集まって、100兆円規模になってくると、次第に淘汰されて目が肥えてくる。新聞にも載っていましたけれどもホンダはインサイト(リンク)を初めてこの展示会で展示したり、ソニーが色素増感太陽電池を華々しく見せたりということです。非常に大きな流れを作り出せたらいいと思っているのです。

昨日だけでも5万7千人が来場したそうで、今日は7万人を越えるのではないかと思っています。実行委員長の私としては、まだまだ不満足で、ゆりかもめが新橋まで人で繋がるようにならないと革命は起こせないのではないかと思います。

益田:先程のサステナブルデザイン行動宣言の中にも書いたのですが、日々のルーティーン・ワークの中で、ともすると時代遅れというか、今まで通りの経済的な商品開発に則った活動に終始している。その一方でサステナビリティを追求しようとする。そうすると矛盾が出てくる訳ですけれどもそうした矛盾を突破する心構えを、最後にお二人にお聞きしたいと思います。

星川:やはり、思い切ったイノベーションですとか、平均的なところから飛び出して自由に、むしろそれを奨励して応援していくような社会、気持ちが大事なのではないかと思います。日本はどうしても風を読んで小さく固まってしまうのですが、風穴を開けてくれるような人達や組織を許容し応援するということ。そこで可能性をみていくことも一つであると思います。

益田:ありがとうございます。今、日本の大企業の経営トップは非常に大きな危機感を持っていると思います。そういう企業の中には99%の屋台骨の事業がある一方で、1%のまったく違う実験的プロジェクトを起こしている企業もどんどん出てきている。私たちもそういうところに参画していきたいと強く思っています。皆さんもおそらく同じような悩みをもっていられると思うのですが、極力ご自分でそういう機会を作って取り組んでいかれるといいと思います。

山本先生は、もともと金属の人工超格子等の専門で絶対二度と離れないような金属の分子構造を考えておられたことから、逆にリサイクルもしなければならないということを思ってこられたと伺った事があります。同じ質問なのですが、ともすると我々は過去に縛られてしまいがちで、そこを突破するためには、例えば今見せていただいた国際的、科学的な知見があるにも関わらず、それに背を向けようとする大きな体制があるわけです。そこを切り崩していくためには、個人として何を心がければいいのでしょう。

山本:個人というか、革命の時代に生きている訳で、願ってもないチャンスなわけです。正に動乱の時代を迎えている。そういう流れに身を投じていい仕事をするというのは、非常にやりがいのある仕事であると、若い人にもっと気がついてもらうことです。デザイナーも是非思い切って活動していただきたいです。先日、井の頭線の渋谷駅で岡本太郎の壁画を見てきました。ああいう通行人が沢山いるとことで、巨大な壁画を見るというのは非常に人を動かす力があると思います。サステナブルデザインもそういうモニュメントのようなものを作る必要があるだろうし、色々な啓蒙、啓発的なことも必要だろうしと思います。

また、先のような小規模な実験的サステナブル・シティを作ってみる。とにかくやると、実行に移す時がきたと思います。

益田:ありがとうございます。まさに行動に移す時がきたということだと思います。我々はサステナブル国際デザイン会議3回目を終え、皆で合意したことは、次回以降会議のようなものをする時にはそこには必ずそれぞれが活動成果を持ち寄って成果発表していく、それ以外におそらくないだろうということでした。

語るべきことは語ったし、やるべきことはみえたと考えたわけなのであとはやるべきだけと考えました。今日は勇気付けられるお話本当にありがとうございました。

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