各分科会からの提言

A -1「職能のモラル:サステナビリティはデザインのモラルをどう変えるか?」

(C) Hiroshi Homma

はじめに

コーディネーター/船曳氏:この分科会では、デザイナーは職能をどう社会に還元していくかをテーマとして考えました。

多くのデザイナーが、サステナビリティというキーワードに関して必要性を感じながらも、一方では、クリエイティビティをなくすことになるのではないか...と、葛藤しています。サステナビリティは、世界のメーカー、デザイナーにとって考えなくてはいけない重要な問題になっています。デザイナーの職能をどうやって社会に還元していくか、ということが根底のテーマです。

分科会を始める前に問題提起としてデザイナーズ・アコード(デザイナーの協定)」(IDEO/アメリカ *詳細については兼松さん(greenz)からのプレゼンテーションを参照)の中からいくつかの言葉を拾って問題的としました。デザイナーズ・アコードの中の「Designer's Dilemma(デザイナーのジレンマ)」という記載によると、これまでの価値観は、デザインには、競争力を保つための差別化や 排他性が必要であり、サステナビリティという言葉は「停滞」を示し、コラボレーションは「模倣」である、ということでした。しかしながら、「人をワクワクさせる」というのがデザイナーの職能なのであれば、様々な環境の問題、人口爆発の問題などの中で、いかにして、デザイナーのクリエイティビティを活かしながらいかにサステナビリティに迫るか、新しい戦略を練るかということが重要だ、ということです。大まかに言ってデザイナーズ・アコードの背景といえると思います。

4名のプレゼンテーション

[各プレゼンターとプレゼンテーションについては、このページの下方に記載しています。]

分科会のプレゼンターは、スキーマ建築の長坂常さんアアリス・シェリンさんgreenz 兼松佳宏さんと鈴木菜央さんです。各プレゼンターのプレゼンテーションのあと、アアリス・シェリンさんのグループと、長坂常さんのグループの2つに分かれてディスカッションをしました。アアリスさんのグループはジャーナリストや教育者が中心に集まり、長坂さんの方はご自身がデザイナーやクリエーターである方が集まってディスカッションを展開しました。

私自身は、デザイナー自らが言葉を発することが重要と思い、長坂さんのグループに参加しましたので、先ずはそちらのディスカッションのことから発表いたします。



ディスカッション - - - 長坂さんのグループ

デザイナー、インハウスのデザイナーはクライアントや会社の要求を行けてデザインをすると思いますが、「Original=オリジナル」、「exviting=わくわくする 」、「marketablity=マーケットの要求にあうもの、うけいれやれすいもの」を要求されるでしょう。

IDEOは、アメリカの製造業のデザインを請け負っている会社ですが、自己批判といいますか、自身を振り返り考え直すような動きが起こっています。ヨーロッパは80年代からサステナビリティの意識は高いですし、アメリカは今そのような動きが起こっている事に遅れていると感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、消費大国であるアメリカがこういった問題に取り組んできている。

デザイナーのモチベーションについて、どういうことが情熱をかけるモチベーションのきっかけであるかということを長坂さんとお話しました時に、創造性、考えの飛躍をもたらすこと、人々を動かすこと、乾燥させることが自分の仕事である、とおっしゃっておりました。しかし、これでは個人的なものになりかねません。どこに、どういうふうにデザイナーのモラルがあるか。

デザイナーとしてわれわれが共有するモチベーションは、「美しさを追求する」、「美しいものを作りたい」という要求があります。だけれども美しいものすべてがサステナブルであるわけではありません。もちろん、そうであるものもありますが、必ずしもイコールではない。モチベーションというのは、美しさや造形的なインパクトなのか、ほんとうにそうなのかを話し合いました。

そして、最終的には、デザインを受け止めるユーザーの評価がモチベーションになっているのではないかと議論が進みました。

ユーザーはどういう評価をしてくれるのかということですが、ユーザーの評価基準は本当に多様化しています。つい最近までは、ユーザーの評価はマーケティグによるある程度決まった評価基準がありました。刺激的で、いかに消費者を魅惑して買わせるか。

しかし、今、それは変わりつつあり、世界はもっと多様化しています。まだ、先程のようなマーケティング、不ランディングによる評価がマジョリティではあるかもしれませんが、多様化しています。それは何かというと、「人間の身体の健康」。そして、もうひとつ、「社会的合意性」。表立っては語られないけれども、ユーザーの中にこのような評価ががでてきていることを、日々、我々も感じるようになってきました。

先程の長坂さんが議論の中でおっしゃっておられたのですが、我々は、例えば、高いコスト、資源を投入すれば素晴らしいものができるかもしれない。けれども、限られたリソース、資源のなかで、ローコスト?お金だけでないコスト、すべてのエネルギーなどを抑えた上で高い品質ができたときに、すごいという声がユーザーからあがる。そういう時に、やった!と思う、ということをおっしゃっていました。それをきいて、私もまったくそのとおりだと思いました。

18世紀の一部の王侯貴族など、職人二世代に渡ってものを作らせ素晴らしいものを作っています。しかし我々の現代は、デモクラティな社会です。一部のセレブリティが楽しむものがハイデザインだということではありません。ものづくりは一人の為のことではありません。デザイナー自身がユーザーでもあります。

ハイコストでなくとも、同じくらいの満足を届ける事に、我々の喜びがあるんだということです。オリジナルであるけれども、みんなが手を伸ばすことが出来る、ということです。

どういうことがユーザーの判断基準なんだろうということを考えていきますと、そこでようやく「サステナビリティ」にたどりつくことができます。どういうものがユーザーに満足感をあたえられるか。「original=オリジナル」「exciting=わくわくする」「usable =使える」「reasonable=ほどよい価格である」、そして、安全性ということもあるけれども、今後はかなりの部分「サステナビリティ」というところがユーザーにインパクトを与える。

そういうことをデザイナー自身がはっきりと意識化できたとき、サステナブルデザインに向かうモチベーションが起こってくるということだと思います。

最初のほうに、IEDOの提案「デザイナーズ・アコード」がありましたがそれに我々は賛成するか?という話もちょっとしました。多分それは違うだろうと。「デザイナーズ・アコード」はいかにも上から目線でデザイナーを上から下に見下しているようなドグマティックなもので、我々は「diversity=多様性」、それぞれの人の考え方やそれぞれの人のクリエイションのモチベーションを多様に考えることを譲歩しないという結論にいたりました。







ディスカッション - - - アアリスさんのグループ

もう一方のアアリス・シェリンさんのグループですが、アアリスさんの提案もあって、いかにサステナブルという概念をグローバルに共有できるかということをいくつかのグループにわかれ、何が阻害要因か、何が促進要因かということを話しあったそうです。結論をご紹介させていただきます。

【阻害要因】
・情報が足りない
・個人個人によって温度差があることを認めなくてはいけない
・利益追求が優先されている阻害している。

【促進要因】
・まず世代間のでコミュニケーション、ジェネレーションギャップをなくす。
・お互いに十分納得できるように理解しあう。コンセンサスをとる。
・生活の中のリアリティをもったサステナビリティ
・デザイナーに対して何がサステナブルで何がサステナブルでないかについて十分なインフョメーションを与えていこう。
・我々が今何に行動できるかを見つけていこう。
・どんな低い性長の時代にあってもいちおう生きていけるセーフティネットを提案していこう。

 

とりとめもない部分もありますが以上でA1からの提言として発表させて頂きます。

補足 - - - greenz 兼松さん

「デザイナーズ・アコード」については、船曳氏が言われたようなドグマティックなものではなく、多様性を尊重し、認めオープンネットワークを促進するものだと思っています。日本語訳もあるので読んでみて、賛同する方は参加いただくのも良いと思います。


コーディネーター:船曳 鴻紅(株式会社東京デザインセンター代表取締役社長 )

東京大学社会学科を卒業。夫、船曳建夫と共に、太平洋の未開地を含めた多様な文化の中で生活を経験し、イギリスから帰国後、オックスフォード大学Department for Continuing Educationへの留学プログラムを設立している。1992年に日本初のインテリア・マートとしてオープンさせた東京デザインセンターは、欧米を中心とする世界のインテリア・ブランドが集積した建築空間デザインのメッカとなっている。そこでは日本の建築・インテリア業界の活性化のため、デザイン展、セミナー、シンポジウムなどの文化活動を一貫しておこなってきた。

プレゼンテーション 「PACOを通して見るサステナブルな技術」

プレゼンター:長坂常 有限会社スキーマ建築計画

サスティナブルな社会を形成する上において重要なものとして技術があります。ただ、その技術ですが、身近なものと現実にはほど遠いものとが混在しています。そのため、「論理的にはできる」ということについつい安心してしまいがちです。ここでは、「現在」何ができるかということをスキーマで開発中のスモールセカンドハウス「PACO」に当てはめ、考えてみたいとおもいます。

プロフィール:東京藝術大学で建築を学び1998年に卒業後、独立開業。家具から建築にいたるまで広くデザイン活動を行う。2007年に自ら開設したギャラリーhappaにてデザインギャラリーを運営する。2009年1月より自らの作品「PACO」を実寸展示する。

プレゼンテーション 「オープンソースを志向するデザイナー協定」

プレゼンター:鈴木 菜央 兼松 佳宏(greenz.jp)

大統領選挙や金融危機など変化が著しい2008年。デザイナーの世界でも、"デザインの京都議定書"とも呼ばれる「The Designers Accord」など、未来を左右しそうな新しい動きが始まりました。greenzからは世界のデザイン界の動きを紹介しながら、その変化の本質を考えたいと思います。

鈴木菜央 greenz.jp編集長。株式会社ビオピオ取締役。「月刊ソトコト」にて編集・営業として勤務後独立。各媒体へのエンタメ系環境ニュースの提供、企業の環境マニフェストや環境・サステナビリティをテーマにした紙媒体の編集・ディレクション、社会的キャンペーンのディレクションなどを手がける。

兼松佳宏 greenz.jpクリエイティブディレクター。株式会社ビオピオ取締役。"ソーシャルクリエイティブ"をテーマに、NPOのウェブ制作に関わる。2006年に独立し、greenzの立ち上げにデザイナーとして参画。「デザインとビジネスとサステナビリティをつなぐ」をテーマに、デザインや執筆、イベントプロデュースなどを行っている。

プレゼンテーション 「プラクティカルに取り組むことが大切」

プレゼンター:アアリス・シェリン

土地に根付くサステナブルについて。土地に根付くことはとても重要であるがとても難しいと実感している。ユートピア思想で終ってしまう。ビジョンと技術をもって、ターゲットを絞り込み評価とリサーチを繰り返したプロジェクトにしていくことで、地域に落としていくことができると考えている。

サステナブルに取り組む個人的背景に照らし、ユートピア思想に対してプラクティカルに取り組むべきとの姿勢。

アアリス・シェリン セント・ジョンズ大学グラフィックデザイン助教授。教育者、作家、デザイナー。コミュニティ団体や非営利団体と学生との共同プロジェクトを実施し、各々のニーズに合わせたデザイン解決策を導きだす。オリジナルな素材と調査手法を用い、見過ごされがちあるいは目を向けるべきデザイン分野を再発見してきた。建築・工業な事例を取材した実例集「サステイナブル:グラフィックデザイナーとクライアントのための応用ガイドブック」を今夏発刊。

参考資料:前日・基調講演会での講演「前向きなデザイナー 世界を帰るための手法を」もご覧下さい。

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