各分科会からの提言

B -1地域と国際性:リージョナルルーツを受けて

(C) Hiroshi Homma

Chapter

はじめに
プレゼンテーション内容
プレゼンテーションで討議されたキーワード
結論と考察

プロフィール
コーディネーター:酒井 良治(財団法人日本産業デザイン振興会)

プレゼンター:島村 卓実(有限会社クルツ代表取締役)、アンドレアス・シュナイダー(情報デザインアソシエイツ)、サリ・ササキ(FCIリサーチ主宰)、青木 史郎(財団法人日本産業デザイン振興会)

はじめに

コーディネーター/酒井氏:ラッセル・ケネディさんの講演「サステナビリティと文化のアイデンティティ」を受けて、世界各国のデザインと地域性の関わりの事例からデザインと社会の関係を考える、特にタイやインドネシア、中国などアジア地域の文化には欧米と異なるサステナブルなヒントがあるだろうというお題をいただきました。

ディスカッションは日本の方の参加がほとんどでしたので、どうしても日本の事例に偏ってしまいましたが、結果的には日本のものづくりの考え方や生き方には、省資源、省エネルギー、地域に基づいたものづくりなど、アジア全体にも共通する話が多いにあるのではないかということで話を進めました。

プレゼンテーションは4名の方にお願いをし、かなり長いプレゼンテーションになりましたので、最終的に議論する時間はあまり取れませんでしたが、プレゼンテーションの中から出てきたキーワードをご紹介させていただき、報告とさせていただきます。

プレゼンテーション内容

島村卓実さん(有限会社クルツ代表取締役)
島村さんは、高知県に間伐材を薄くスライスして3次元加工できる技術がある村がありまして、その技術に対して地域差や素材を発見し、それをかばん(生活雑貨)という形をとり率先してデザインしておられます。また新しい産業自体をつくっていく時に、大事にしていることはシンプルなものづくりでシンプルに進めることであるという内容でした。

サリ・ササキさん(FCIリサーチ主宰)
サリ・ササキさんは国連のユネスコ本部で働いていた経験がおありで、パリでの生活や、多様な活動からお話をしていただきました。パリは街全体が100年くらい変わっておらず、街やサービスシステム、生活なども大きな変化がないという強いアイデンティをもつ街です。パリに見るように、今ある資産に注目して新しい価値をつくったり楽しんだりすることに多いに役立つのはデザインの知恵ではないだろうかというお話でした。

アンドレアス・シュナイダーさん(情報デザインアソシエイツ)
シュナイダーさんはドイツの方ですが長く日本に住んでおられ、情報デザインの分野で活動されている方です。2010年にインドで大きなワークショップに使う素材を用いて話をしていただきました。欧米にはない日本人特有の心配りや優しさ、日本人に対するシンパシーを感じ、それらを見直す必要があるという内容でした。

青木史郎さん(財団法人日本産業デザイン振興会)
青木さんからは、日本のデザインは約60年間、欧米からの求めに応じ求められるままにものを作ってきたことで、驚くべき進化を遂げてきました。90年代に入ってからはエコロジーなものづくり(省資源、省エネルギー、システム開発)を積極的にやってきましたが、もともとデザインは外圧や規制を守らなければ売れないため、エコデザインもその規制の中でものづくりをしてきました。これからもそういったやり方は必要ではありますが、産業をデザインが牽引し、新しい産業を構築していく形をとっていかなければならないだろうというお話をしていただきました。

私もGマークの仕事を10年以上やっていますが、この10年で大きく変化したことは、デザイン発のプロジェクトやデザインがイニシアチブを取って進めるものづくり、プロジェクトが増えたことです。Gマークは年間約3,000件のエントリーがありますが、そのうちプロジェクト的なものが100件を超えてエントリーされるようになりました。そういった活動分野にデザインが力を発揮出来る状況になってきていますし、もっとやっていかなければならないと思います。

(C) Rei Kubo
(C) Rei Kubo
(C) Rei Kubo

ディスカッションで討議されたキーワード

プレゼンテーションに時間を取ったため、参加者同士が討論する時間はあまりありませんでしたが、考えるためのヒントとなるキーワードを出しました。

  • デザインと社会の理想的な関係は?
  • 欧米とは異なるアジアのサステナブルデザインとは?
  • 世界の先導となりうる日本のデザインとは?

この3つキーワードを考えるヒントとしまして、実際に

  • グローバルに考え、ローカルに行動すること
  • 地域においで、デザインがイニチアチブを発揮し、実現できること
  • 明日から取り組む具体的なアクション

のためには具体的にどうすればいいのかを考えてみて欲しいというお願いをしました。

これらのキーワードから出た具体的な考えとして、

  • 問題は複雑だがあきらめずに取り組む
  • 極端な考えは長続きしないのである程度分を弁えた活動をする
  • 地域の楽しさを発見するためには、グローバルな視点が必要→地域に資源があっても、地元の人は気が付かず、活用しようと思っても方法がわからないが、外からの視点だと発見出来る。
  • ローカルなアイデアを世界につなげていく
  • 新しいビジネスモデルや産業ネットワークの仕組みづくりにチャレンジする
  • これからの新しい生き方につながるデザインこそがサステナブルデザイン
  • 自然とプロダクトの関係性に想像力を働かせる
  • サステナブルデザイン国際会議のような場で、常に考え続けることが大切
  • デザインが外と内をつなぐようなチャンスを作っていく
  • 日本人の持つ繊細な感覚を取り戻す→平安、江戸時代のように通信に時間のかかった時代の人への思いやりや考え方にヒントがあるのでは?
  • アジアの自然、人々の感受性、文化の多様性の中にヒントがある
  • 足るを知ることが大切
  • また、サステナブルデザインはこれらの考えを実践することで、あとからついてくるのではという意見もありました。
(C) Rei Kubo
(C) Rei Kubo
(C) Rei Kubo

結論と考察

結論としまして、今後のアクションのために必要なことは、

  • これからの新しい生き方を考え続ける知恵
  • アジアのデザインの持つ美しい調和がある美的センスに合致した行動をもつ

ということが重要ではないかという結論にいたりました。

特に今回は日本人が多いので、アジアのデザイン、とりわけ日本のデザインの中にある心遣い、これは相手を思いやる想像力や、繊細な感覚、足るを知る心などをもう一度心に刻んで活動していくべきではないかと思います。

最後に昨年益田先生がおっしゃった言葉をお借りしますが、「分を弁え、野暮はやめ、粋に生きる」デザイナーやデザインに携わる全ての人にこの言葉を胸に明日から新たにチャレンジしていってもらいたいと思います。

(C) Yoshiharu Sakai

プロフィール

コーディネーター:酒井良治(財団法人日本産業デザイン振興会)

1973年広島県生まれ。東京造形大学卒業後、1997年に(財)日本産業デザイン振興会に入職し、制度民営化後のグッドデザイン賞の事業運営を担当。現在は東京都等行政のデザイン関係プログラムの構築・実施やアジア諸国との恊働、東京ミッドタウンデザインハブでの展覧会企画等を担当。

http://www.g-mark.org/、http://www.tokyo-design-market.jp/


プレゼンテーション 「地域素材とデザイン商品『monacca』」

高知県、馬路村の間伐材をつかったデザイン製品群の発案から産業化まで。

プレゼンター:島村卓実東京造形大学デザイン学科教授(インダストリアルデザイン/サステナブルプロジェクト))

プロフィール:プロダクトデザイナー。クルツインク代表。SUBARU、デザイン会社を経て独立。クルマやバス等の輸送機関、小規模住宅やインテリア等の空間デザイン、家具やプロダクトデザイン等、企画発案からデザイン、販売にいたるトータルデザインを展開している。

http://www.t-shima.com/http://www.monacca.com/


プレゼンテーション 「Design And Place Branding」

マイアミののみの市で買った小さなキューバの旗は「Made in 台湾」でした。この小さなものは、私たちの世界がグローバル化している象徴ではないかと思います。グローバル化は社会の深い変化をもたらし、全世界の人の心を襲っています。またその一報で、それはすばらしい繋がりと交流を可能にしました。そして、他方で、数々の不均衡、不平等の引き金となり、文化のアイデンティティを同質化へと導きました。

プレゼンター:サリ・ササキ(Sali Sasaki/FCIリサーチ主宰)

プロフィール:1976年横浜に生まれ、パリで育つ。パーソンズ・スクール・オブ・デザインで美術の学士号を、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでコミュニケーションデザインの修士号を取得。2004年〜08年、国連UNESCO本部で働き、創造的都市という概念、特に国際発達におけるデザインの役割を研究。現在、フロリダに事務所を構え、地域ブランドや文化的アイデンティティ、クロスカルチャーな活動に注目したデザインコンサルティングを展開。ロンドンとマイアミで活躍。


プレゼンテーション 「異文化間の経験「観察のモデル」

2008年、インドのアーマダバードにあるナショナル・インスティチュート・オブ・デザインで行われたワークショップが元となっている。デザインの発展の可能性や需要をより理解するために、生産、流通、使用に関するライフサイクルを普段とは異なる文脈で捉える。このワークショップは2010年にアーマダバード・バンガローで開催される国際会議「情報デザイン:知識の植付け、能力の発達、実践への活用」に向けてのアクティビティの一つとなる。

プレゼンター:アンドレアス・シュナイダー(Andreas Schneider/情報デザインアソシエイツ)

プロフィール:ベルリン芸術院で講師を勤め、1991年に多摩美術大学の研究員として来日。1997年、同大学に新設された情報デザイン学科の一員となる。現在、岐阜県にある情報芸術科学大学院大学(IAMAS)で教鞭をとる。デザイナーとして活躍する一方、デザイン開発のプロセス研究者として優れた開発モデルを提案している。


プレゼンテーション 「グッドデザイン賞の役割とサステナブルデザイン」

欧米から求められるまま60年間デザインを生み出し進化してきた。日本のエコデザインは外圧から始まったが、咀嚼して進めてきた。新しい産業として進化し構築すべき。デザイン主導のプロジェクトは増えており、Gマークエントリーは100を超えている。

デザインの立ち位置、これまでの産業としてのデザイン。ロングライフデザイン →デザインのムダをなくす 消費をとめる。サステナブルデザイン。産業側から一歩踏み出す。サステナブルな社会を見据えて。アジアとの連携 他国のグッドデザインのプロモーション  タイ、デンマーク。経済的ではないアジア的なデザイン。近代的合理的でないデザインにも注目する。プロモーションし、拍手を送り続ける事で、社会は変わってゆくのではないか。

プレゼンター:青木史郎(財団法人 日本産業デザイン振興会 常務理事兼事業部長)

プロフィール:1948年東京生まれ。東京芸術大学美術学部卒業後、(財)日本産業デザイン振興会に入職。以降行政サイドからのデザイン振興活動を担当。現在は中核事業であるグッドデザイン賞の統括の他、デザイン人材育成、国際的デザインプロモーション活動等を担当。教育活動として、法政大学、金沢美術工芸大学、産業技術大学院大学の客員教授。東京大学、多摩美術大学等の非常勤講師を務める。日本デザイン学会理事、芸術工学会理事。

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